近視治療の分野において、かつて一世を風靡したのがレーシック手術です。
視力を回復し、眼鏡やコンタクトから解放される方法として話題を集め、多くの人が選択しました。
しかし、近年ではその施術件数が減少傾向にあり、以前ほどの人気は見られません。
この変化の背景には、医療技術の進化や患者側の価値観の変化、安全性への認識、代替手術の登場など、さまざまな要因が複雑に絡んでいます。
この記事では、レーシックがなぜ減少したのかを多角的に分析し、現状や今後の動向、さらに選択肢として注目されている他の視力矯正法についても詳しく解説していきます。
記事のポイント
- レーシックが減少した主な原因は複数あり
- 医師自身がレーシックを受けない理由に注目
- 代替手術「ICL」の台頭が影響
- 今後の技術進化や患者選択にも変化の兆し
レーシックなぜ減った?理由を多角的に分析
レーシック手術件数の推移とピークアウトの年

2000年代初頭、レーシックは画期的な視力回復手術として一躍注目を集め、多くの眼科クリニックが施術に参入しました。
特に2007年から2010年にかけてはブームともいえる状況で、年間数十万件(日本国内で最大約45万件)の手術が行われ、まさにピークを迎えた時期といえます。
広告や口コミ、芸能人の体験談などが相まって、若年層から中高年まで幅広い世代がレーシックに関心を持ちました。
しかし、その後のレーシック手術件数は減少の一途をたどることになります。
厚生労働省や日本眼科学会が発表した統計によると、2015年以降は施術件数が急減し、2020年代に入ってからも年間5万件前後で推移しており、かつての盛り上がりは見られなくなっています。
多くのクリニックがレーシックからICLなどの新技術にシフトしたことや、視力回復を希望する患者のニーズが多様化してきたことも背景にあるといえるでしょう。
このような件数減少の背景には、後述する合併症リスクの認知拡大や、SNSを通じた不安の共有、代替手術の普及、費用対効果の再評価など、複数の要因が複雑に絡み合っています。
単に「人気がなくなった」では片付けられない、構造的な変化が進んでいるのです。
合併症リスク報道が与えたインパクト

レーシックの安全性は医学的に一定の評価を得ており、基本的な施術においては高い成功率を誇ります。
しかしその一方で、視力の過矯正や矯正不足、ドライアイ、ハロー・グレア(夜間の光がにじんで見える現象)といった合併症のリスクが一定数報告されています。
これらのリスクは必ずしもすべての患者に起きるものではないものの、2008年に発生した都内クリニックでの集団感染事故が契機となり、世間の関心が一気にネガティブな方向に傾きました。
この事故を皮切りに、大手新聞や週刊誌、テレビ報道などでレーシック手術のリスクについて取り上げられる機会が急増し、それまで「手軽で安全」と思われていたイメージが崩れていったのです。
視覚に関わる重大な部位である「目」への施術であるため、リスク報道は非常に大きなインパクトを持ち、消費者の心理に強く作用しました。
さらに、インターネットやSNSの普及により、術後に違和感や視力低下といった不調を経験した患者が自らの体験をリアルタイムで発信するようになりました。
個人のブログや掲示板、Twitterなどで共有された体験談は、公式の医療情報以上に「生々しさ」を持って伝播し、手術に対する不安や疑念を一層拡大させました。
こうした情報環境の変化が、結果としてレーシック手術の受診数減少に拍車をかけたと考えられます。
10年後の視力低下実態と最新研究

レーシックの長期的な視力安定性については、かねてより専門家の間でも議論がなされており、懸念材料の一つとして認識されています。
手術直後は視力が劇的に改善されるケースが多く、患者の満足度も高いとされていますが、時間の経過とともに視力が再び低下してしまうという報告も少なくありません。
特に術後10年を経過した時点で、近視が若干戻るケースや視力の左右差が再び現れるケースが確認されており、「一度の手術で一生安心」とは言い切れない実情が浮き彫りになっています。
また、加齢によって引き起こされる老眼や白内障といった生理的な視力変化も、術後の見え方に影響を及ぼす要素として注目されています。
レーシック手術は角膜の屈折を変えることで視力を矯正しますが、加齢に伴う水晶体の変化まではカバーできないため、40代以降になると再び眼鏡が必要になる人も出てきます。
近年発表されたいくつかの研究では、視力が術後数年から10年の間に緩やかに低下する傾向があることが示されており、その割合は個人差があるものの無視できない水準です。
また、再手術を検討する場合でも、角膜の厚さや形状の問題により手術を受けられないケースが多く存在します。
こうしたことから、レーシック手術を受ける際には、長期的な視力の変化を見越したうえでの判断と、施術前に行う詳細な適応検査が極めて重要であると改めて認識されつつあります。
二度目レーシック再手術の条件と限界

「もう一度レーシックを受ければいい」と安易に考える方も一定数いらっしゃいますが、実際のところ再手術にはいくつかの大きな制約が存在します。
最も代表的なのは、角膜の厚さや形状の問題です。
レーシックは角膜を削って屈折率を調整する手術であるため、すでに一度手術を受けて角膜が薄くなっている場合、再度削る余地が少なくなっており、医師から再手術を止められることも少なくありません。
特に最初の手術で強度近視を矯正していた場合は、角膜の削除量が多くなりがちなため、2回目以降の選択肢は非常に限られてきます。
さらに、再手術によって症状が改善される保証はありません。
むしろ、術後の炎症や視力の不安定化、角膜の形状異常など、新たな合併症を招くリスクも存在します。
中には、再手術を受けたことでかえって視力が悪化したというケースや、夜間視力の著しい低下、光のにじみ(グレア)といった新たな不具合を訴える患者もいます。
こうした事例が報告されていることもあり、医師や専門家の間でも「再手術は慎重に」という意見が多数を占めるようになってきました。
このような背景から、術後の結果に満足していない場合でも、すぐに再手術に踏み切るのではなく、まずは根本的な原因を医師としっかり分析し、必要であれば別の治療方法(ICLや眼鏡など)を検討するという考え方が広まりつつあります。
再手術に対する慎重な姿勢は、単なる医療的制約だけでなく、患者側の心理的な不安や長期的な視力の安定性を重視する傾向が強まっていることの表れともいえるでしょう。
一部の眼科医が慎重になる理由

眼科医の中には、自らレーシックを受けないという選択をする人も少なくありません。
これは、レーシックという手術の仕組みや限界、そしてそれに伴う長期的なリスクを誰よりも深く理解している立場だからこその判断といえます。
以下のような理由が、慎重な姿勢の背景にあると考えられます:
- 長期的な安全性への懸念(視力低下や角膜形状変化の可能性)
- ドライアイやハロー・グレアなどの後遺症を数多く診ているため
- ICLやSMILEなどの新しい屈折矯正技術に信頼を置いている
- 加齢に伴う老眼や白内障が将来的に避けられないことを理解している
- 適応条件に非常に厳格で、自己の目の状態に不安がある場合は受けない
また、手術を受けることによって、かえって将来的な治療の選択肢が狭まってしまう懸念も、医師にとっては重要な判断材料となっています。
角膜を削るという不可逆的な手術だからこそ、後にICLなど可逆性のある治療を選べなくなる可能性を鑑み、あえてレーシックを避けるという考え方もあります。
もっとも、すべての医師がレーシックを否定的に捉えているわけではありません。
たとえば米国のある調査では、眼科医の約62%が自らLASIKを受けたというデータもあります。
このように、レーシックに対するスタンスは医師ごとに異なり、慎重な見解と積極的な姿勢の双方が存在しています。
つまり「眼科医の多くが受けないから危険」という単純な解釈ではなく、それぞれの医師が自身の専門的判断に基づいて選択しているという点に留意することが大切です。
ICL台頭が若年層の選択肢を変えた

ICL(眼内コンタクトレンズ)という視力矯正手術が一般的に認知されるようになったことは、視力矯正業界において非常に大きな転換点です。
ICLは角膜を削らずに眼内にレンズを挿入する方式であるため、レーシックとは異なり、将来的にレンズを取り外すことが可能な“可逆性”が大きな特徴です。
この特徴は、目の状態が将来的に変化する可能性がある若年層にとって極めて魅力的に映ります。
特に20〜30代の若者は、まだ老眼や白内障のリスクが表面化していない世代であるため、将来的な視力の変化や他の眼疾患への対応を考慮すると、ICLの柔軟性は大きな安心材料となります。
さらに、ICLは強度近視にも対応しやすく、角膜が薄い場合でも施術可能である点も、多くの人にとって重要な判断材料となっています。
日本国内でもICLを専門とするクリニックや、ICLに特化した施術を提供する医師が年々増加しており、レーシックからICLへのシフトは確実に進んでいます。
2024年時点では、業界推定でICLの年間施術件数がレーシックの約2倍に達しているとも言われており、この傾向は今後も加速する可能性が高いと考えられています。
特に情報収集能力が高く、将来のリスクも見越した選択を重視する若い世代においては、ICLの人気は今後ますます高まっていくと見られています。
レーシックなぜ減った?今後の動向と選択肢
コンタクトメガネ費用比較から見る費用対効果

かつては「レーシックで一生コンタクト不要になる」という費用対効果が強く訴求されていました。
視力が回復し、以後のコンタクトや眼鏡代が不要になることで、長期的にはコスト削減になるという考え方が主流でした。
しかし近年では、コンタクトレンズの価格が大幅に下がり、さらには月額定額制のサービスも充実してきたことで、継続的な利用でも大きな経済的負担を感じにくくなっています。
その結果、レーシックとの費用差は年々縮まり、「一括で高額を支払うレーシックより、柔軟に使える定額コンタクトの方が気楽」という消費者の声も増えています。
加えて、老眼や白内障など加齢に伴う視力変化を考慮すると、レーシックを受けても将来的に再び視力矯正が必要になる可能性が高く、「一生モノ」とは言い切れない現実もあります。
このように、費用対効果という観点からもレーシックの優位性が絶対的ではなくなってきた今、視力矯正方法の選択には、費用だけでなく将来的な変化や自分のライフスタイルを踏まえた慎重な判断が求められています。
身近な体験例周囲の目つき変化への対処

レーシック後に「目つきが変わった」と言われた経験を持つ方も少なくありません。
これは単に視力が変わっただけでなく、角膜のカーブが物理的に変化することで光の反射具合や瞳孔の見え方が変わり、それにより目元の印象が変化するためです。
特に、光の入り方やまぶたとのバランスが微妙に変化することで、「きつく見える」「目が鋭くなった」といった周囲の印象に影響を与えることがあります。
このような変化は完全に予測できるものではなく、あくまで個人差があります。
まったく変化を感じない人もいれば、自分でも鏡を見て印象が違うと感じる人もいます。また、職業柄見た目の印象を重視する方にとっては、術後の印象変化が心理的な負担となるケースもあるでしょう。
しかしながら、こうした現象は必ずしもマイナスとは限らず、見た目が「すっきりした」「目力が強くなった」とポジティブに受け止められることもあります。
術前の説明時にこうした変化の可能性を知っておくことで、術後のギャップに戸惑うことなく、あらかじめ心の準備ができるという意味でも重要です。
事前に医師に相談したり、過去の症例を確認しておくと、より安心して手術に臨めるでしょう。
SNSで拡散した失敗談の真偽を検証

SNSや掲示板などのインターネット上では、「レーシックはやめたほうがいい」「失敗して視力が悪化した」などのネガティブな意見や体験談が散見されます。
これらの投稿は検索結果でも上位に表示されることが多いため、手術を検討している人にとって強い印象を与えることがあります。
しかし、こうした情報の多くは、個別の症例や主観的な体験に基づいたものであり、必ずしもレーシック全体の安全性や有効性を否定する根拠にはなりません。
例えば、ドライアイが悪化した、思ったほど視力が上がらなかったといった事例もありますが、それが医療ミスによるものなのか、術前の説明不足による誤解なのかを見極めるには慎重な検証が必要です。
一方で、実際に術後の不快症状を訴えている患者の中には、適切なクリニックを選ばず、経験や実績の乏しい施設で施術を受けていたというケースもあります。
また、術後のケアや定期的なフォローアップを怠ったことによってトラブルが悪化している例も少なくありません。つまり、すべての失敗談がレーシックという医療技術そのものの問題であるとは言い切れないのです。
このような状況を踏まえると、インターネット上の情報は鵜呑みにせず、信頼できる医療機関でカウンセリングを受け、自分自身の目の状態やライフスタイルに合った視力矯正法を選ぶことが大切です。
事例の真偽を冷静に見極め、必要であれば複数の医師の意見を聞くなど、多角的な判断が求められます。
芸能人ケーススタディ成功と後悔の分岐

芸能人のレーシック体験談は、一般の人々にとって非常に注目される情報源のひとつです。
テレビや雑誌、SNSなどで公開された経験談は多くの人の目に触れるため、その影響力は大きく、手術を検討している人の意思決定に少なからず影響を与えるケースもあります。
実際、視力が大幅に回復して「日常生活がとても楽になった」と語る成功例も多く、眼鏡やコンタクトから解放されたことで仕事やプライベートの充実度が増したと話す人もいます。
一方で、レーシックを受けたことで思わぬ不調に悩まされたという後悔の声も存在します。
たとえば「夜間の光がにじんで見えるようになった」「ドライアイがひどくなり集中力が続かない」「術後のフォローが不十分だった」などの具体的なエピソードが公開されることもあり、ネガティブな印象を与える場合もあります。
このような体験談は、芸能人という影響力のある立場から発信されるため、SNSなどで拡散されやすく、世間全体のレーシックへの印象を左右する可能性もあるのです。
ただし、これらの成功・後悔の分岐は、それぞれの芸能人の目の状態や生活スタイル、施術を受けたクリニックの方針、術後のフォロー体制など多くの要因によって異なります。
そのため、特定の体験談を過度に重視するのではなく、あくまで「参考情報」として客観的に受け止めることが重要です。自分自身の目の状態を正確に知り、信頼できる専門医と相談しながら判断する姿勢が求められるでしょう。
最新レーザー技術で安全性は向上したか

レーシックに使われるレーザー機器はこの十数年で大きな進化を遂げており、より安全で正確な施術が可能になってきました。
特に注目されているのがフェムトセカンドレーザーとウェーブフロント技術です。
フェムトセカンドレーザーは従来のマイクロケラトーム(刃)に代わってフラップを作成する技術で、精度が格段に向上し、術中のトラブルリスクを大幅に減らすことができます。
また、ウェーブフロント技術は目の個々の歪みを詳細に解析し、それに応じたカスタム治療を可能にするもので、視力の質(コントラスト感度など)の向上にも寄与しています。
このように、最新機器の導入により、角膜へのダメージを最小限に抑え、より個別性の高い施術ができるようになった点は間違いなく安全性向上に貢献しています。
実際、以前に比べて合併症の発生率も低下傾向にあるとする研究報告も見られます。
しかしながら、「技術が進化したから絶対に安心」とは必ずしも言い切れません。
どんなに優れたレーザー技術であっても、適応外の症例や術後ケアが不十分な場合には、視力低下やドライアイなどのリスクは残ります。
また、手術の成功には医師の経験や技術力も不可欠であり、設備が最新でも医師の判断ミスがあれば十分な成果は得られません。
したがって、最新技術の恩恵を最大限に受けるには、術前の適応検査を丁寧に行い、自分にとって本当にレーシックが最適かどうかを見極めることが重要です。
そして、信頼できる医師・施設を選ぶこと、術後のフォローアップ体制がしっかりしているかも含めて判断する必要があります。
データで読み解くレーシックなぜ減った

レーシックがなぜ減ったのかをまとめると、以下のような多層的な要因が複雑に絡み合っていることがわかります。各項目は単体ではなく、相互に作用しながら患者の選択や業界の動向に影響を与えています。
- 視力再低下や再手術困難性など、術後長期にわたる安定性への懸念が根強い
- ドライアイやハロー・グレア、夜間視力障害など後遺症リスクの認知が広がっている
- 一部の眼科医が自ら受けないなど、専門家による慎重な姿勢が情報発信に影響
- ICL(眼内コンタクトレンズ)の登場により、「削らない」視力矯正への支持が拡大
- SNSや芸能人によるポジティブ・ネガティブ両面の情報拡散が患者心理に大きく作用
- コンタクトレンズの低価格化や月額定額制の普及により、代替手段のコストパフォーマンスが相対的に向上
これらの要因を踏まえると、レーシックの人気が単に「下火になった」わけではなく、視力矯正の選択肢が多様化し、より長期的な視点で治療法を選ぶ時代に移行していると言えます。
今後は、個々の目の状態やライフスタイル、加齢に伴う視力変化などを総合的に判断しながら、自分に合った矯正法を選ぶという流れがさらに加速すると見られます。
その中で、レーシックという選択肢も、一定のニーズに応じて再評価される可能性を秘めています。




